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ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~

外国を旅行して現地の言葉が分かれば良いのになと思うことは、多くの人が経験しているだろう。『ヘテロゲニア リンギスティコ~異種族言語学入門~』は若い言語学研究者ハカバが、言葉の壁にぶつかりながら魔界で異種族とのコミュニケーションに奮闘する話。

異世界ジャンルの作品の多くは、異種族でも言葉が通じたり共通言語を話したり、あるいはチートスキルや魔法によって言語能力を獲得し、異種族間のコミュニケーションが成立している設定が定番。『ヘテロゲニア リンギスティコ』では、一つの世界に人間が住む領域と魔物たちが住む領域とが併存していて、人間側から魔界調査として言語や生活様式などの文化的なことから生物の探索や土地の測量などが行われている。ハカバの師匠である“教授”は長年魔界調査を行ってきた研究者で探検家。その教授がうっかりケガをしてしまいハカバが代打に指名され、今まで研究してきた言葉が通じるのか一抹の不安を抱えながら、一人魔界に降り立ったのだ。(交通手段が気球という設定で、教授は気球から降りるのではなく、落ちてしまった。)

ハカバは魔界でワーウルフ、スライム、リザードマン、クラーケン、ハーピーなど異世界作品ではお馴染みの異種族たちと出会い、交流を試みながら調査を進める。ただしこの作品ではハカバが異種族たちと意思疎通が図れない、という状況がメインの設定なのだ。この作品の異種族たちはダンジョンの中で敵対するような攻撃的なキャラクターでもなく、かといって和気あいあいと楽しく旅する仲間でもない。ただ彼らのルールに基づいて行動する。集団で食べ物を作ったり、狩りをしたりすることはあっても、集団を統率するリーダーはいないし、互いの緊密な連携プレーもない。挨拶、食べ物、住処といった生活習慣など「人と違うものには 人と違うルールがある」と頭では分かっていても、数日間寝食を共にした老ケンタウロスが亡くなって、その体が食物となったときなど、生き死に関する出来事となるとハカバの気持ちがなかなか追いつかない。ハカバに同行するガイドのススキと言葉は通じても、人間の文化や気持ちを伝えることはなかなか難しい。異種族のことを理解したと思っても、それは人間側の解釈に過ぎないことが多いと教授は指摘していたことを思い出し、ハカバは調査を進められるか逡巡してしまう。マンガの話ではあるけれど、自分たちとは異なる文化や社会に対する「理解と解釈」の例えは、現実の私たちにとっても身につまされることではないだろうか。

思うように進まないことが多いけれど、ハカバは勇気を出して言葉だけでなく異種族の人たち自身に興味を向ける。そうすることによって異種族の人たちの行動に対する気づきも増え、言葉の収集も少しずつ増えて体系化されていく。ミノタウルスのモウさんがどうやら人間の言葉に興味がある同業者だと分かったし、いろいろ頼れるワーウルフのキノコ氏やどこか憎めないリザードマンのカシューとケクーなど、気づいてみればハカバのことを気にしてくれる人たちが増えている。ハカバの魔界冒険は始まったばかりなのだ。

written by Undo

作家:瀬野反人

作品情報:『ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~』(KADOKAWA ヤングエースUP連載 単行本1~4巻)

https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000086/

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