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『女の子がいる場所は』

映画化された『LOVE MY LIFE』(2006年 祥伝社)、『愛の時間』(2008年 祥伝社)、『レッド・シンブル』(2015~2017年 KADOKAWA 全3巻)などの作品で、女性の視点を軸に作品を描いてきたやまじえびね。『女の子がいる場所は』は、評論家や研究者、書店やSNSなど多くのマンガにかかわる人たちやメディアがこぞって取り上げた、2022年のマンガ界で注目を集めた作品の一つだ。

サウジアラビアにはじまり、モロッコ、インド、日本、そしてアフガニスタンといった世界の国々に住む、10歳の女の子たちがこの作品の主人公たち。10歳というと、社会的にはまだ大人の保護を必要とする年齢であり、他者を意識して自分と比較したり、自分自身を肯定し否定もするような、いわゆる思春期の入り口にたつ年齢だろう。そして女の子たちが暮らす国には、宗教的あるいは歴史を背景に、性別に基づいた文化的な習慣や価値観が生活や考え方の中に残っていて、この作品は10歳の女の子たちが、そうした習慣や価値観に誰に頼るわけではなく自分自身で対峙する物語である。一夫多妻制が認められているサウジアラビアで、第二夫人の子どもとして不自由なく生活するサルマは、それでも“わたしたちは 結婚しないと 生きていけないの ママ?”と問う。モロッコの読書の大好きなハビーバは、祖母の友人で口うるさい頑固な女性の、女性であるという理由で教育の機会を奪われ侮られてきた人生を知り、深い気づきとともに心の底から苦しく悲しい気持ちになる。インドのカンティは、母親の再婚によって大きな家のお嬢さんになった。正義感にあふれるカンティは義父の女性を搾取する行いを糾弾するが、その義父の助けがなければ自分たちも再び貧困に陥る矛盾に、自身が進むべき道を見出す。

『女の子がいる場所は』の主人公の女の子たちはみんな、それぞれの国、それぞれの社会における“女性”の扱われ方、“女性”の生き方に接して驚き、戸惑い、必死で考える。そして自分自身の気持ちと考えで、自身の将来への決意表明をするのだ。作者のやまじえびねはおそらくたくさんの取材や資料をもとに、ここに収められた5編を描いたのだと思う。それぞれの国の文化や習慣の違いを良い悪いといった観点で描くのではなく、あくまで主人公たちを通して事実を読者に提示しながら、主人公たちの未来に思いを馳せるよう展開していく。各編のト書きは淡々と状況を説明しつつ、主人公たちの心の言葉も語って秀逸。こんな時代もあったね、と感想を言える未来に期待したい。

written by Undo

作家やまじえびね
作品情報『女の子がいる場所は』(KADOKAWA ビームコミックス 全1巻 月刊コミックビーム2022年1月号~2022年6月号)
https://comicbeam.com/product/322203001576.html/
https://comicbeam.com/product/past/onnanokogairubashoha/

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