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神奈川に住んでるエルフ

「異世界」は、2000年代以降ライトノベルの認知度が社会的に向上するまで、SFやファンタジー小説の世界だった。ライトノベル、ゲーム、アニメ、マンガというメディアによって盛んに採用され、日本独特の“異世界モノ”というジャンルが成立。現実世界とのギャップを際立たせる設定として重用されて、2010年代にはすっかり過剰供給。2020年代の現代ではキャラクターの造形やアトリビュート(Subculture Report #02参照)としてのアイテムをはじめ、違和感なく物語に登場しイラストに描かれる。例えば、エルフ。西洋の神話やおとぎ話、ファンタジー作品に登場する妖精だ。トールキンの『指輪物語』に登場する神族的な人間のような姿かたちをしたエルフは、作品の壮大なファンタジー世界と共に、文芸だけでなく美術や映像、ゲームやアニメ、マンガと多くの表現領域に影響をもたらした。いまやエルフは属性からビジュアルまで、幅広く展開可能なキャラクターとして確立している。人間と比べて総じて長命で美しいというのがよく採用される特徴で、神族的なイメージと長命であることから、時間や感情に超越した感覚を持っていて、自意識が高く冷徹とも思われる態度をとるように描かれることも多い。日本における(世界的にもかも)エルフの造形には、日本のライトノベルとファンタジーの先駆であり金字塔、水野良『ロードス島戦記』(1988年角川書店)が深く関わっている。マンガ、イラスト、メカデザイン、脚本、監督などマルチクリエーター出渕裕の描いた『ロードス島戦記』のエルフ、ディードリットが、“ロードス島”以降のエルフのビジュアルを決定づけた。いまや“長く尖った耳”でないエルフをだれが想像できるだろう?

日本のサブカルチャーにおけるエルフの説明が長くなってしまったが、鎧田『#神奈川に住んでるエルフ』、この作品は長命で美形なエルフと人間との対比を、神奈川の地元ネタを通して描くコメディ。タイトルの通り、令和のエルフは神奈川に住んでいる。異世界の彼らが住んでいた森が焼かれてしまい、人間の世界にしかも神奈川県に移住してきたのだ。森を追われた際、かつてエルフの森に転移したことのある(作中では転生となっているが、元の世界へ帰ったという記述から転移が妥当かと思う)人間(おそらく江戸時代の人)に助けを求める。その人間が川崎に住んでいたことから、それぞれ神奈川の各地域に根を下ろしたようだ。本作のエルフたちはお互いを横浜、横須賀、相模原、鎌倉など住んでいる地名で呼び合い、主要キャラの川崎に住む人間も「川崎」と呼ばれている。「川崎」はエルフと関係を持った最初の人間の家系で、横浜のエルフのスットコぶりに辟易しながらも友人として、エルフとの関係を大切にしている。地元ネタ満載だが、地域名を自分の名前としているご当地エルフの、長命ならではの歴史トリビア、地域や人との関り、エルフ同士のエピソードが良い。例えば相模原のエルフは造園業に従事していて、1本の大きな庭木をめぐり何十年という時間の中での、エルフと庭木と家主との優しい関係が描かれている。相模原のエルフは仕事でいすずの小型トラックの定番「エルフ」に乗り、藤沢のエルフはいすずの藤沢工場勤めの設定。(いすずの藤沢工場では本当に「エルフ」を生産している!)茅ヶ崎、藤沢、平塚の湘南エルフ、野毛と伊勢佐木町のダークエルフ、葉山やみなとみならいのハイエルフ、そして町田(神奈川ではなく東京都)のオークなど、神奈川県民以外も何となくイメージしているであろう地域の雰囲気と異世界キャラの組合せも面白い。

地元ネタのマンガ作品には実写映画が大ヒットした魔夜峰央『翔んで埼玉』(白泉社)やドラマ化もされた井田ヒロト『お前はまだグンマを知らない』(新潮社 全11巻)、アニメもヒットしている安藤正基『八十亀ちゃんかんさつにっき』(一迅社 1~12巻)など数多く、ご当地マンガというジャンルにもなっている。『#神奈川に住んでるエルフ』は、超越的な他者という異世界エッセンスとご当地ネタの絶妙な組み合わせの作品だ。

written by Undo

作家 鎧田

『#神奈川に住んでるエルフ』(マイクロマガジン社 コミックELMO連載 単行本1~2巻) https://comicelmo.jp/detail/kanael/

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