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神クズ☆アイドル

顔でスカウトされ、楽してお金が稼げそうだとアイドルになった“やる気のないアイドル”仁淀ユウヤ。人気絶頂で事故に遭い幽霊となってしまった“伝説のアイドル”最上アサヒ。『神クズ☆アイドル』はユニットアイドルを解雇されそうになったユウヤと幽霊のアサヒが出会ったことから、クズに神が宿る憑依アイドルが誕生、アイドル界のトップを目指すコメディ。理想のアイドル像を持たない無気力なユウヤと、幽霊になっても最高のアイドルを目指すアサヒ。ユウヤを健気に支えるユニットパートナーの吉野カズキ、アサヒの大ファンだった人気アイドルグループのリーダー瀬戸内ヒカル、アサヒが憑依したユウヤの演技力に騙されユウヤを師匠と呼ぶ“黒騎士アイドル”七瀬ヤクモ。ギャグ要素の多いアイドルたちだが、それぞれ(ユウヤを除く)にアイドルとは?という自分自身の存在意義と格闘していて、“成長物語”要素もしっかりある。アイドルをテーマとした作品の中で、こうした直向きなアイドルたちとやる気のないユウヤとのギャップが、『神クズ』の魅力を引き立てている。

奮闘するアイドルたち以上についつい楽しんでしまうのが、仁淀推しのアツい“限界オタ”たち(ポジティブな意味での限界オタク)。しぐたろ、ツグコ、河川敷の3人がライブで見せる悲鳴と雄叫び、吐露するオタ的心情は、ギャグであり共感ポイント。彼女たちはライブやイベント後に居酒屋に集いその日の推しを総括、自身の感動をものすごい言い回しをもって全力で表現する。『神クズ』には様々なキャラのアイドルが登場するが、アイドルだけでなくいろいろなタイプのファンがいて、それぞれの推し、それぞれのこだわりが描かれている。そうしたファンの推し活を見ると、アイドルはこうした全身全霊で推してくれるファンがいてこそ、アイドルという生ける偶像になるのかとも思う。

アイドルに情熱を注ぐオタクのマンガに、アニメ化・実写化もされている『推しが武道館行ってくれたら死ぬ』(平尾アウリ)がある。岡山を舞台に、ふとした出会いからローカルの女性アイドルグループのメンバーのファンとなり、お金も時間もすべてつぎ込んで推す女性ドルオタの姿を描いて人気の作品だ。『神クズ』と『推し武道』、アイドルや推し活になじみがなくてもこの2作品を読むといろいろ発見がある。『神クズ』の推しは男性アイドルユニットで、『推し武道』は女性アイドルグループとそもそも異なる地平からの視点だが、地方と都市のアイドル活動の様子だったり、性別や年齢の異なるファン、そうしたファンたちの日常のちょっとした違いが見えてきて、そうかそうなのか、そうなのだろうなと共感とも理解ともつかない感覚を覚えて楽しい。アイドルとファン。生身を超えたイマジナリーな世界を楽しめる。

written by Undo

作家 いそふらぼん肘樹

『神クズ☆アイドル』(一迅社 月刊コミックZERO-SUM連載 単行本1~6巻刊行中)https://zerosumonline.com/zerosum/comic/kamikuzu

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