REVIEW

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『リストランテ・パラディーゾ』『GENTE~リストランテの人びと』

2003年に商業誌デビューしたオノ・ナツメは、ヨーロッパのような外国の雰囲気をまとった作品から(イタリアに語学留学の経験があるそう)、日本の時代物の作品、basso名義のBL作品まで、その独特の画風と物語の構成が魅力の作家。和田竜の『のぼうの城』(2007年 小学館)や『小太郎の左腕』(2009年 小学館)のカバー・イラストに採用されるなど、出版業界でも当時から注目されていたことがわかる。『さらい屋五葉』『ふたがしら』『ACCA13区監察課』シリーズなどアニメ化、ドラマ化、舞台化された作品も多く、2022年現在も青年向け・女性向けマンガ雑誌、Webマンガメディアなど異なるジャンルの媒体に作品を発表している。

『リストランテ・パラディーゾ』(以下『リスパラ』)とその外伝にあたる『GENTE』は、ローマのリストランテ<カゼッタ・デッロルソ>に関わる人たちの物語。『リスパラ』の主人公はとある事情を抱えてローマに来たニコレッタ。彼女の母オルガは、離婚後ニコレッタを実家に預けたままローマで弁護士として仕事に励むが、その一方でカゼッタ・デッロルソのオーナーのパートナーに収まっている。しかもニコレッタという娘がいることを隠して。母娘の間でひと悶着あった後、ニコレッタはオルガの “友人の娘”としてカゼッタ・デッロルソで見習い働きをするようになる。さてこのリストランテのカメリエーレ(ホールスタッフ)は、オルガの趣向で老眼鏡かけた初老の紳士に限られている。グループアイドルのごとく個性の異なるカメリエーレたちは、女性客たちからの支持が実に熱い。『GENTE』で「そこに行けば会えるっていう そいういう安心感が良かったのかも」とオルガがふと漏らす言葉のように、そこに行けば極上の料理とワインとメガネ紳士を堪能できる、まさにリストランテ・パラディーゾなのだ。(ちなみに2000年代の日本ではドラマ「冬のソナタ」でメガネをかけた主役のペ・ヨンジュンがヨン様ブームを巻き起こしたあたりから、2005年に『メガネ男子』なる写真集まで発売されるほど、“メガネ×男子”がブームになっていた。)

メガネはこのリストランテのカメリエーレを特徴づけるアイテムの一つだが、この作品の大きな特徴は説明的なセリフがとても少ないこと。登場人物たちの日常的な、あるいはゆったりとした静かな会話だけで進行する物語を、マンガのコマが淡々と表現している。つまりコマの中でフキダシに割かれれるスペースがとても少ない。さらにそのコマとコマの間を行き来させるように、描かれた人物たちの間を行き交う視線が見えるような構成。その起点であり中心となっているのが、オノ・ナツメが描く人物たちの目(現代的イラストのハイライトがたくさん入った目とは対極的な表現の目)。その目が誰を見ているのか、誰がその目を見ているのか、交錯する視線を追っていると登場人物たちの発する少ない言葉がより響いてくる。こうした演出のもと、疎遠だったニコレッタとオルガの母娘が、働く人として、恋する大人として接するたびにお互いを知り、お互いに程よい距離に落ち着いていく。『リスパラ』の前日譚『GENTE』では、リストランテに関わる人たち-働く人たちやその家族、お客として来店する人たち-それぞれの日常と、人とのかかわりの中で遭遇する様々な出来事が語られる。イタリアの大きな家族の物語のような、外国の雰囲気を楽しめる良質のオムニバス映画を見ているような作品だ。

作家 オノ・ナツメ

作品情報 『リストランテ・パラディーゾ』(マンガ・エロティクス・エフ 2005年vol.33~2006年vol.38連載、単行本全1巻)
『GENTE~リストランテの人びと』(マンガ・エロティクス・エフ 2006年vol.41~2009年vol.55連載、単行本全3巻)

written by Undo

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