REVIEW

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『アイシールド21』『Dr.STONE』の原作者・稲垣理一郎と『男組』『サンクチュアリ』の作画で知られる劇画界のレジェンド・池上遼一がタッグを組んだ『トリリオンゲーム』。この2人が作る作品、面白くないわけがないのだ。誰が相手でもトークは抜群、ケンカも強く破天荒な行動力のハル、パソコンオタクで自己肯定感低めだけれどやる時はやるガク。高校時代に偶然出会った二人が、就職活動を期に株式会社トリリオンゲームを立上げ、周囲を巻き込んで巨大企業を相手に一か八かの勝負を挑む、スリリングな疾走感かつ爽快感あふれるストーリー。

「クハハ 悪り!」で何事も済ませるハル、「あばばば」とオタオタしてばかりのような正直者のガク。一見正反対に思える若者二人が、1兆$を手にするという夢に向かって、無理難題をクリアし金も力もある巨大な勢力と喰うか食われるかのバトルを繰り広げる。巨大企業ドラゴンバンクの黒龍会長のラスボスっぷり、その娘で“桐姫”ことキリカの“お嬢様”を武器に仕掛ける熾烈なマネーゲーム。ハッカー大会に始まり、AI(実は人力)セレクトショップ、ソーシャルゲーム、ネットTVそして通信業界へと常に“トリリオン”を見据えた令和の時代そのもののような戦いと挑戦が、友情や人に対する信頼が心の一番奥にある登場人物たちの昭和な感覚にシンクロする。稲垣理一郎×池上遼一という組み合わせが生み出すシナジー、これがこの『トリリオンゲーム』の真骨頂だろう。資金調達もゲーム開発もめげることなくコツコツと、地道に一歩一歩進めていく様は、石化した世界から月まで到達する『Dr.STONE』でたびたび登場した地道な作業の積み重ねに基づいた科学のロードマップそのもの。会社の上司や取り巻きに、マスコミや芸能界にいかにもいそうなやりすぎ設定の人物たちも、池上遼一の独特の描線や陰影で描かれると、そういうキャラとしてすんなり受け入れてしまう。『トリリオンゲーム』では登場人物たちがそれぞれの思いから涙する場面があるが、こんなに色気のある涙を描けるのは、やはり池上遼一だからなのだ。

単行本の構成がなかなか良くて、冒頭でガクが昔を懐かしむようなくだりから様々な事件の始まりと顛末が描かれ、各巻毎に読み切る安堵感もありつつ、次巻へとワクワク、ハラハラな展開を期待させる。最新8巻ではキリカと手を組み通信事業に挑戦するハルとガク。資金調達のため創業4年の株式会社トリリオンゲームがたった1年で株式上場を狙う。この新たな展開の最終ページが、「なんてインチキくさくて頼もしい笑顔……!!!」のハルのどアップという、『トリリオンゲーム』でしか成立しない表現。彼らが行きつく先はわかっているのだが、それでもどうやって?どうなるの?という興味が尽きない作品だ。

written by Undo

作家原作/稲垣理一郎 作画/池上遼一
作品情報
『トリリオンゲーム』(小学館 ビックコミックスペリオール連載 コミックス 8巻刊行中)
https://bigcomicbros.net/work/38477/

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