REVIEW

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地主『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』はTwitter(現X)発の作品。web漫画として2022年に公開した『スーパーの裏でヤニ吸う話』が人気となり、同年単行本発売を機に改題されて月刊誌での連載開始となった話題作だ。

日本では2020年に改正健康増進法が全面施行されて屋内は原則禁煙になり、喫煙できる場所を探す時代になった。家庭だけでなく職場や駅など公共の場でも隣の人が普通に煙草を吸っていた昭和。ドラマや映画の中でもまだ喫煙シーンがあった平成。そしてドラマや映画で喫煙シーンがあることが話題になるような令和。身近に喫煙者がいなければ、煙草の形状やパッケージ、銘柄や値段、匂いや吸う仕草など煙草にまつわる文化もイメージも知らない人たちが増えても仕方がない時代。“ヤニ”という言葉に作者はどのようなニュアンスを込めたのか、読者はどう感じるのか?と気になったりもするけれど、それはまた別の感想。『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』は、タイトルのとおり、スーパーの裏の関係者用喫煙スペースでふとした偶然から煙と言葉を交わすようになる、年の差のある男女の話。男は仕事に疲れた中年の佐々木。煙草とスーパーの店員の接客に癒しを求めるような毎日を送っている。女はその佐々木の癒しであるスーパーの店員の山田。20代半ばの彼女はスーパーの仕事が好きで、苦手だった接客もお客の“癒し”になるくらいまで頑張って来た。ただ仕事モードと退勤モードの彼女は服装だけでなく表情や態度に落差がありすぎ、察しの悪い佐々木は一緒に煙草をふかしている“田山さん”(からかい半分で咄嗟に山田が名乗った嘘の名前)が、自分の癒しである“山田さん”であることになかなか気づかない。そんな二人が煙草を通して言葉を交わしお互いを知っていくストーリーだ。

佐々木が煙草を取り出すとき(箱の上の方を指でトントントンと叩く)に何本出てくるか?で運試しをしていたり、佐々木がお礼に“田山”に贈る携帯の灰皿、煙草の匂いのこと(田山が佐々木に消臭ミストを進呈)、お互いが普段吸っている銘柄、さらには健康の問題など、煙草を介して佐々木と山田の距離がだんだんと近くなっていく。タイトルの“裏でヤニ吸う”が象徴するように、人目につかない裏手で一服する、仕事から離れちょっと心が休まる場と時間を共にする“ふたり”にある種の仲間意識が生まれても不思議ではない。同僚でもなく友人という言わけでもない、知人と言うには知らないことがまだ多い、ましてまだ恋愛関係でもない佐々木と山田の関係を、佐々木の元上司が「大切な関係」と表現している。近くなった佐々木と山田の距離がどのような関係に変化していくのか、これからも楽しみな作品。

written by Undo

作家地主
作品情報『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』(スクウェア・エニックス 月刊ビッグガンガ掲載 ビッグガンガンコミックス 4巻刊行中)https://magazine.jp.square-enix.com/biggangan/introduction/yanisuu/

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