Manga Review #09
夢中さ、きみに。
商業誌での初連載作品で、女子高の教師の日常を描いた『女の園の星』(祥伝社FEEL YOUNGにて連載中)が熱く支持されている和山やま。マンガ界のみならず日本のファッション、カルチャー・メディアからの注目を集める和山だが、そのブレークのきっかけとなったのがこの『夢中さ、きみに。』だ。
『夢中さ、きみに。』は実に2010年代的な方法で登場した。新旧のマンガの流通プラットフォームの威力と、それに個と公の評価システムが即座に反応、対応した作品だと思う。『夢中さ、きみに。』に収録されている作品「うしろの二階堂」を和山はまずpixivに投稿(<【創作BL】うしろの二階堂>というタイトルで、2017年9月投稿されている)。オリジナル作品としては異例の10万以上のいいね!がつき、その時点で話題を集めたという(2022年12月時点でいいね!は12万を超えている)。その反響に背中を押されるように2019年2月のコミティア127で同人誌として発表、さらに同年8月にKADOKAWAの月刊コミックビームのレーベルから単行本として書籍化される。そして2020年に第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞(2020年3月発表)と第24回手塚治虫文化賞短編賞(2020年4月発表)をダブル受賞。Web投稿からたった3年あまりでドラマ化(2021年1月MBS毎日放送 なにわ男子の大西流星主演)まで展開した。
『夢中さ、きみに。』は学校を舞台にしているので、学園モノに分類できるが、大きな擬音が乱舞するスポーツマンガやバトルマンガではなく、恋愛マンガでも日常系のマンガでもない。オリジナルの投稿には創作BLのハッシュタグが付けられているが、BL展開でもない。和山の人間観察から得た情報が、作家の想像&妄想フィルターを通して描き出されるとこんなにも面白いのかと、何度も読み返してしまう、シュールなギャグマンガだ。単行本としての構成は、林という高校生が登場するシリーズと、二階堂という高校生が登場するシリーズの2つに分かれている。学校の階段の段数を数えたり、街中の文字を使ってSNSでしりとりしたりちょっとヘンな行動の多い林。中学校時代のトラウマからわざと気味の悪いいで立ちで周囲と距離をとる二階堂。林も二階堂も実際にいそうでいないキャラクターだが、彼らのそうした奇行に驚きつつも興味を持ってコミュニケーションしようとしてくる人たちとの、くすっと笑ってしまうコメディなのだ。
作家:和山やま
作品情報:『夢中さ、きみに。』(2019年 KADOKAWA ビームコミックス)
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