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『光の箱』

思春期の女子だけに発現する無用力をめぐるコメディ『うちのクラスの女子がヤバい』シリーズや『制服ぬすまれた』(2018年 小学館)、『ベランダは難攻不落のラ・フランス』(2018年 イースト・プレス)など、物語の独特なリズムとシュールな設定で不思議な読後感を与える衿沢世衣子。『光の箱』(小学館 増刊flowers掲載中)はその衿沢の最新作の一つ。

生と死が交差する場。マンガだけでなく小説や演劇、アニメやゲームなど様々な物語の舞台となるところだ。マンガだと例えばドラマ化もされた『死役所』(あずみきし 新潮社 22巻刊行中)、古事記の世界とグルメ要素をかけ合わせた『ヨモツヘグイ』(キューライス 大和書房 全1巻)、勇者や冒険者がいる世界の教会の仕事を描いた『生と死のキョウカイ』(小倉孝俊 集英社 全3巻)、失った大切なものが見つかるという不思議な島の和風ファンタジー『白蛇様の花嫁』(佐保里 スクウェア・エニックス 全3巻)等々、生きてこの世に戻るか、死んであの世に行くのか、時代や世界観の設定も多彩な作品が多くあり、マンガのサブジャンルの一つにカウントしても良いだろうる。生への執着、死への恐れ、悲しみや後悔、生と死の間で気づく気持ちや明らかになる真実。こうしたドラマチックな要素があることが、“生と死が交差する場”をいろいろな作品が採用する理由かもしれない。

さてこの『光の箱』では、闇の中で光をともすコンビニエンスストアが生と死が交差する場所、人が「死に際に立ち寄りたい場所」だ。このコンビニの外は常に真っ暗、“闇”がコンビニに侵入しては襲ってくる。客は人ではない常連と生と死のはざまをさまよっている人たち。人の方はそれぞれ思い思いの買い物をして、あの世に行くかあるいは現世に戻ったりしている。アルバイトのコクラは、自転車事故であと3秒の命のところを、バイトの採用と店舗経営に異次元の能力を示す“店長”にスカウト(=死か労働かの選択)され、現世とこのコンビニを行き来するようになった。“ま”という魔の刻印を受けたコクラは、傷が早く治ったり遠くの声や音が聞こえるなど生物学的な意味で人間ではなくなった。店長も同僚のタヒニ(人類を調査している宇宙人?)も人間の姿をしているが、“魔”の人たちだ。そんな彼らが日々働いているコンビニに、事情や問題を抱えた人たち、働きすぎの女性や優柔不断な若い男性、学校で家で辛い状況にある女の子たち、いろいろな人たちが立ち寄っては行くべきところへ行き、戻るべきところへ戻っていく。大変なことがあってもゆるく受け流すような衿沢のプロットと絵が、生と死の間という場であっても深刻になり過ぎない、まさに夜のコンビニの明りのような温度感の作品。何も見えないと思われる闇の中には、コンビニ以外に本屋があったり、人が行き交っていたりするらしい。死に際に立ち寄りたいのはどこだろう?

written by Undo

作家衿沢世衣子
作品情報『光の箱』(小学館 flowers コミックス 2巻刊行中)
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784091670939
https://flowers.shogakukan.co.jp/author/252/

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