Manga Review #24 『薫る花は凛と咲く』
三香見サカ『薫る花は凛と咲く』は、少年マガジンの公式漫画アプリで連載中の作品。少年マガジンなので、掲載される作品の対象読者としては主として男性が想定されていると思う。その想定のうえでこの作品を読んでみると、これは少女あるいは女性向けの漫画アプリだったかな?と思う。つまり『薫花は凛と咲く』は異色の作品なのだ。
主人公は隣接する男子校と女子校に通う、紬凛太郎と和栗薫子。凛太郎は底辺と言われるような男子校に通い、大柄で金髪にピアスという出で立ちゆえか怖い人と言われがちだが、いたって物静かで真面目な男子。薫子は優秀なお嬢様学校に特待生として学力で入学した努力の人。あまり接点がなさそうなこの二人が、出逢い少しずつだんだんと近づいていく、生真面目で初々しい展開が物語の中心だ。二人の通う学校は窓から互いの教室が見えるほど近いのに、学校間の交流はなく生徒たちは反目しがち。そう、まさに“ロミオとジュリエット”設定なのだ(この例えが2020年代で通用するのか少し不安)。『ロミオとジュリエット』はシェイクスピアの悲劇だが、2020年代日本の学園マンガの“ロミジュリ”は、作者が「登場人物全員が優しい漫画を描きたいと思った」(マガポケベース 2022年4月14日掲載インタビュー記事より)というように、どんなに言い争いになっても登場人物たちの優しさで、お互いの理解と信頼へと繋がっていき、悲劇とは遠く離れた友愛の物語になっている。
単行本10巻まで物語が進んで凛太郎や薫子だけでなく、彼らの友人たちのそれぞれの生い立ちや気持ちも描きこまれてきていることもあり、進学や就職など岐路にさしかかる高校生たちの学園青春モノと言った雰囲気が強くなってきている。登場人物たちは確かに優しい。しかもとても内省的で気持ちの言葉のすれ違いがあっても、それを一生懸命考え言葉にして伝える。そして伝えられた側はそれをしっかり受け入れて、絆を深めていく。少年マンガの学園モノでこんなに登場人物が「ありがとう」という作品はめずらしいのではないだろうか。互いを思いやること、素直に感謝の気持ちを伝えること。作者の言う「優しさ」とは何か、考えながら読みたい作品だ。
作家 | 三香見サカ |
作品情報 | 『薫る花は凛と咲く』(講談社 マガジンポケット連載 講談社コミックス 10巻刊行中) https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000041711 |
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