サブカル・レポートSubculture Report#2
#02 擬人化の表現
勝利と自由と
さて、今回はヨーロッパやアメリカなどの西洋の芸術文化の中の擬人化には、どのような作品や表現があるのか探ってみましょう。例えば抽象的な概念を表した代表的な作品に、フランスのルーブル美術館にある<サモトラケのニケ像 Victoire de Samothrace>があります。サモトラケ島で出土したこの有翼の女性像はギリシャ神話に登場する勝利の女神ニケとされています。ニケは知恵と戦いの神でもある女神アテナに従って戦場に赴き勝利を伝える随神として、オリンポス12神のアテナと一緒に上司と部下のように表現されることもあります。(右手にニケ像を持っているオーストリアの国会議事堂のアテネ像は、このパターンかな?)このサモトラケのニケ像は「勝利」の擬人表現、つまり人間の身体的特徴を有した女神像であると同時に、「勝利」を表しているということになります。ちなみにこの勝利を表す女神の図像は、夏のオリンピックのメダルにも必ずデザインされています。(興味のある方はぜひオリンピック競技大会の公式サイトのメダルデザインをチェック!)
次に、勝利や正義、愛とともによく擬人で表現されるものに「自由」がありますが、この「自由」が擬人で表現されている作品と言えば、どのような作品を思い浮かべますか?前述のニケ像と同じく、ルーブル美術館所蔵のウジェーヌ・ドラクロワ作<民衆を導く自由の女神 La Liberté guidant le peuple (28 juillet 1830)>を見たことはありませんか?これは1830年のフランスの7月革命を描いた大作ですが、フランス国旗となる三色旗と銃剣を手に人々の先頭に立つ女性、彼女は「自由」の寓意として描かれたとされています。この“旗を持つ女性”、“人々の先頭に立つ女性”のイメージは、日本の企業広告でもアイコンとしてたびたび採用されているので、何となく覚えている方も多いでしょう。そしてもうひとつ「自由」と言えば、アメリカの<自由の女神 The Statue of Liberty Enlightening the World>を思い出しませんか?自由と民主主義を表したこの女神像は1886年に友好の証としてフランスからアメリカに贈られてからずっと、世界を照らしています。
西洋の芸術文化の中では、古代ギリシア・ローマ神話のように、神話に登場する神々が太陽や海、風や火などの自然現象や正義や愛などの抽象概念を司り、神話の中で人間のような身体、感情を持って描かれてきました。古代ギリシアで生まれ古代ローマに受け継がれた自由7科(文法、修辞、弁証、算術、幾何、天文、音楽)、いわゆるリベラルアーツのような概念、学問も擬人化されて表現されています。人間の姿で表現された概念が何であるか?神話や語源を知らないとなかなか分からないことですが、その謎を解く手助けとなるものの一つが、アトリビュート(持物)と言われるものです。持ち主が誰なのか示す役割があって、例えば神様が持っている花や食べ物、連れている動物、携える剣や杖、秤などがその神様が何という神様なのかを示して、見る側の私たちの理解を助けてくれます。
今回は擬人表現のルーツの一つとして、西洋の抽象的概念の擬人表現を取り上げました。次からは日本の擬人表現について、いろいろ探ってみたいと思います。
作品情報:
<サモトラケのニケ像 Victoire de Samothrace>
https://collections.louvre.fr/en/ark:/53355/cl010252531
<民衆を導く自由の女神 La Liberté guidant le peuple (28 juillet 1830)>
https://collections.louvre.fr/en/ark:/53355/cl010065872
<自由の女神 Statue Of Liberty>
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