Manga Review #05
『プラネタリウム・ゴースト・トラベル』
紙か電書か。マンガを読むのにメディアを選ぶ時代になって久しいけれど、『坂月さかな作品集 プラネタリウム・ゴースト・トラベル』は電子書籍で読みたい作品。
坂月さかなは「ある宇宙の」風景や物語を描き続けいているという。『プラネタリウム・ゴースト・トラベル』は、そんなここではないどこかのとある宇宙の、プラネタリアと呼ばれた時代を旅する少年たちの“さみしく楽しい”旅の記録。この作品集では<星旅風景><不眠少年 月へ行く><星旅少年><トビアスたちの旅>という、異なる4つの時代を往来するストーリーが展開する。死ぬことをやめた人々が、再び終わりを求めて眠るようになった「ある宇宙」。人々を眠りに誘う「トビアスの木」、「まどろみの星」と呼ばれる住民の多くが眠ってしまった星。そこに残された人の痕跡を記憶、保存する「星旅人」。こうしたピースがちりばめられ、それぞれのストーリーがつながっているようだけど、それぞれの時代の個々の物語のようでもあり、作者の言うあいまいな部分が心地よく、読み手の想像を膨らませる。シンプルでかわいらしい人物、シンプルな描線ながら細かな生活感すら感じられるような室内や装置の書き込み、パースやアイソメ図のような宇宙の中に浮かぶ建物や乗り物。(宇宙を飛ぶベスパとメーヴェが合体したような飛行スクーターにはぜひ乗ってみたい。)宇宙というより“夜”を背景に、ちょっと寂しい感じとでもちょっと口元がほころぶようなそんな読後感だ。
さて、冒頭の紙か電書か、について。メディアの趨勢でも優劣でもなく、電子書籍ならでは楽しみ方があることを坂月さかなが芦奈野ひとしとの対談で語っている。(コミックナタリー 「星旅少年」の坂月さかなが憧れの作家・芦奈野ひとしと対談 https://natalie.mu/comic/pp/hoshitabi)それは、夜に部屋の照明をすべて落とした状態でも、電子書籍だと読むことができるということ。坂月さかな曰く「マンガに登場する夜道の灯だけがぼうっと浮かんで、本当にその場に自分がいるみたいな気持ちになる(芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』についての坂月さかなのコメントから)」。書籍としての『プラネタリウム・ゴースト・トラベル』は、マンガの<星旅少年>以外のパートは、イラストと短いテキストで構成されている。このイラストのパートと電子書籍という組み合わせは、坂月さかなが描く“とある宇宙”をもっと堪能することができる。夜という空間ととある宇宙が続いているかのように。
『プラネタリウム・ゴースト・トラベル』のシリーズ作品『星旅少年』で、“さみしく楽しい”旅は続く。
作家 坂月さかな
『坂月さかな作品集 プラネタリウム・ゴースト・トラベル』(パイ インターナショナル 2021年)https://pie.co.jp/series/4858311/
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