Manga Review #10
ホテル・メッツァペウラへようこそ
クリスマス・シーズンによく似合う、フィンランドのラップランド地方を舞台にした福田星良の初連載作品。フィンランドでも北に位置するラップランド地方。そのとある町にある古くて小さなホテル<メッツァペウラ>。昔は多くの従業員が働いていたが、今はホテルマンのアードルフとシェフのクスタの古参二人でやりくりしている。吹雪く12月のある日、二人はホテルの外に佇んでいる青年ジュンを保護する。パスポートから彼が日本から来たこと、17歳であることが分かったが、荷物もお金もほとんどなく全身に見事な入れ墨が彫られていること以外、正体不明の青年。ただ、アードルフとクスタは問いただすことはせず、放ってはおけないと彼にホテルで働くことを提案。ジュンは戸惑いつつもそれを受け入れて、新米ホテルマンとしてフィンランドでの生活をスタートさせる。
この作品は異国の地で人と出会い、関りを積み重ねていく中で人として成長していくジュンの物語である。それでも「次の目的地へ 自分の足で 歩いていける力がつくまで 見守ってやるだけ」と静かに語るアードルフ(ジュンは先生と呼ぶ)とクスタという大人のキャラクターが断然良い。作家も力が入っているのではないだろうか。ジュンよりも描く熱量が多いように感じる。ジュンの事情や思いに無闇に立ち入らないよう気遣いながら、甘えたり人の好意に接する経験が少なかったジュンを、ホテルマンとしての仕事を通して導き励ますアードルフとクスタ。彼らが守る場所、旅人が安心して休んで元気に次の目的地へと向かえるような場所、それがホテル<メッツァペウラ>なのだ。
ジュンのこれまでの日本での生活や幼い頃に別れたフィンランド人の母親のことなど、回想として描かれているがまだ繋がった物語として描かれていない。軍人だったアードルフがどういう経緯で<メッツァペウラ>でホテルマンとして働き始めたのか、勇猛果敢な消防士だったクスタがなぜシェフになったのか。まだまだ登場人物たちの描かれていない過去や思いが多い。そして単行本の3巻まで、作品の季節は12月のまま。ジュンのビザが夏までという期限があるようだが、フィンランドの冬以外の季節の様子も知りたい。日本でも人気の高いフィンランドの建築やインテリア、プロダクト・デザインを含めて、フィンランドのライフスタイルも知りたい。知りたいこと、福田の細やかな筆致で描いてほしいことがたくさんある。続きが楽しみな作品だ。
作家:福田星良
作品情報:『ホテル・メッツァペウラへようこそ』(KADOKAWA ハルタ2020年~連載中 単行本1~3巻刊行中)
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