Fashion Review# 02
Theme 2 “Parasol”
テーマ2:日傘
”I was so relieved to share your parasol.”
あなたの日傘に入れてもらって、ほっとしたんだ。
ここ数年、8月の太陽を痛いと感じるようになったのは、きっと私だけじゃない。
ほんの数分照らされるだけで、ジリジリと熱い音が立つような気がしてくる。
駅の改札を出ようとした瞬間、とんでもない絶望感に襲われる。
今日は日傘を忘れてしまった。
慌てて日陰を探すけれど、なかなかそれでは目的地に辿りつけない。
今から10分も真夏の太陽と対峙しないといけないのか!
日傘というアイテムは、使っていなかったときは「ふうん」くらいしか思っていなかったのだが、
使い始めると手放せない不思議な雑貨だと思う。そして、レースの日傘は格別に魅力的である。
レースの日傘の記憶は、祖母の姿と重なる。
お盆休み、祖父母の家へ帰省は子どもにとって冒険だ。
兄と2両編成のローカル鉄道にゆられ、1つしかない改札の田舎の駅にたどり着くと、
ホームから街の様子が一望できる。
パチンと切符を切る駅員の向こうには生成色のコットンに白糸刺繍が施され、
縁取りに小花柄のレースのついた小さな日傘を差しこちらへ手を振る祖母が見える。
改札をぬけ、シボのある生地の涼しそうな手製のワンピースの裾にしがみつくと、
母と似ているが少し違う優しい香りがする。
家に向かう田舎の道を、祖母の日傘に入れてもらいながら歩く。
小さな日陰から飛び出さないように慎重に歩いていると、祖母は持っていいよと日傘を渡す。
顔を上げると眩しい日差しをレースがふわりと遮る。
竹の持ち手のつるりとした、いつもと違う感触に心が弾んだ。
遠くに過ぎてしまうと、記憶の断片はいつも心の中で眠っているのだが、
何かの拍子に補完され、鮮やかによみがえる。
日傘を広げた瞬間、大切にされた思いに触れる。
いつも小さな日陰を作ってくれる私の日傘に今日は感謝したい。
残念ながらレースはついていないけれど、祖母とゆっくり歩いたあの日を忘れないように。
“ Embroidary work and text by Satomin”
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