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『コタローは1人暮らし』

津村マミ『コタローは1人暮らし』は2015年からビックコミック スペリオールで連載中の作品。2021年には関ジャニ∞の横山裕の主演でテレビドラマ化、2022年にアニメ化もされた。電子書籍配信サイトであるコミックシーモアの電子コミック大賞2018で、男性部門賞を受賞している。

この作品の主人公、さとうコタロー。ある日単身者用の“アパートの清水”に引っ越してきた4歳の男の子。作中のアニメ『とのさまん』の大ファンで、自分のことを「わらわ」と称し、「うむ」とか「くるしゅうない」「~するぞよ」などと殿様語で話すちょっと変わった子どもだ。引っ越しの挨拶をはじめ、炊事洗濯、掃除などすべてを1人でこなす、“1人暮らし”のコタロー。そんな超人的なコタローに対して、同じアパートの住人たちはむしろダメな大人たち。コタローの隣室の狩野は、なかなか売れない漫画家でちょっと自堕落な生活を送っている。コタロー大好き!でも一見怖い感じの田丸は、バツイチで幼い息子となかなか会えずにいる。コタローを気に掛けるお姉さん的存在の美月は、ヒモのような彼氏との関係に悩んでいる。それぞれに事情を抱えた登場人物たちが織り成す、“笑って泣けるアパートメントコメディー”(というのが作品のキャッチコピーらしい)、それが『コタローは1人暮らし』。

家事は完璧、訳アリな様子だけど生活スキルも対人スキルもバッチリなコタロー。マンガならではのファンタジックな設定だが、もう一つ“裏”ともいえる設定が、この作品に辛く厳しいリアルな雰囲気をまとわせる。親によるDV、ネグレクト。略語やカタカナ表記が一般化してしまったが、コタローが1人暮らしの理由だ。そしてコタローの大人びた言動は、両親の不和が日常にある家庭環境の中で、穏やかな時間を親と共有したいがために、彼が身につけた術だったことが分かる。子どもの“なぜなぜ期”のエピソードや幼稚園でのマスクのエピソードに描かれているように、時に敏感すぎるコタローの人に対する反応や気遣いは、常に人の顔色をうかがうことであり、コタローが生き抜くために必要なことだったのだ。

コタローはファンタジーであるマンガの主人公であり、現実の多くの非力な存在である子どもの象徴でもある。このように『コタローは1人暮らし』はたくさんの表と裏、2つの側面で構成されている。コタローの時に冷静すぎる考えと、こうした境遇にあっても親を慕う子どもとしての感情。コタローの周りの人たちもコタローに心を寄せて見守る大人であると同時に、家族や親しい人との関係に悩みを抱える者でもある。くすっと笑えるギャグマンガでもあり、自分だったらどうするか?自問する場面も多いシリアスなマンガでもある。そして多くの登場人物たちが表情豊かに描かれているのに対して、コタローの父親も母親もまだその顔が描かれていない。コタローの記憶の中にのみ両親の顔はあって、読者には両親がどんな表情をしていたのかは分からない。コタローがなりたいと願う“強きもの”になり、家族と対峙できるようになったときに分かるのかもしれない。たとえマンガであっても、狩野たちが願うようにコタローの“子どもらしい”成長を願わずにはいられない。

written by Undo

作家津村マミ
作品情報
p.p1 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; font: 12.0px ‘Hiragino Mincho ProN’} p.p2 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; font: 12.0px Times} span.s1 {font: 12.0px Times}
『コタローは1人暮らし』(小学館 ビックコミック スペリオール2015年~連載中 単行本1~9巻刊行中)
https://bigcomicbros.net/work/6159/
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_EB06203585010000_68/

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