REVIEW

REVIEW

“散歩”がジャンルとして認められるくらい、散歩を描いたマンガ作品がたくさん見つけられるようになってきた。例えば2000年代前後、谷口ジローの『歩くひと』(小学館 1998年)は、谷口の精緻な筆致で描かれた風景が世界的な評価を獲得した作品。谷口が『孤独のグルメ』でタッグを組んだ久住昌之との『散歩もの』(扶桑社 2009年)では、主人公のサラリーマンに「理想的な散歩とは“のんきな迷子”になること」と言わしめている。Manga Review#15の衿沢世衣子にも『ちづかマップ』(小学館 全3巻)という作品があり、好奇心旺盛な女子高校生が江戸の古地図を片手に町を探検する。“散歩”でイメージする動物の筆頭は犬だと思うが、犬との散歩をテーマにした作品もある。例えば田岡りき『今日のさんぽんた』(小学館 月刊サンデー 2020年~)、中村一般『ゆうれい犬と街散歩』(トゥーヴァージンズ 2022年)。LINEマンガで発表されていた帯屋ミドリ『ぐるぐるてくてく』(LINE 全4巻)は、“散歩部”の方向音痴の先輩とゲーム好き後輩が紙の地図を手に迷子になりながら巡り歩く。Twitter発“ゆる散歩漫画”と評されているスマ見『散歩する女の子』(講談社 ツイシリ 2023年~)も女の子二人の毎回テーマがありながらも“ゆるい”散歩マンガだ。

さて、今回取り上げるpanpanyaも散歩マンガのジャンルといってもよい作品が多いと思う。出版されている単行本は短編作品集の形式が多いのだが、『おむすびの転がる町』(白泉社 2020年)にも今回の『模型の町』にも、作者の日記とともに散歩系の作品がたくさん収録されている。表題作である「模型の町」シリーズ、「ここはどこでしょうの旅」シリーズや「登校の達人」、「ブロック塀の境地」などちょっとシュールな、ウィットに富んだ16篇の作品だ。どれもpanpanyaの特徴である丹念に描かれた背景とラフなスケッチ風の人物の併存が読み手に独特の視覚体験を与えて、ストーリーとともに読後に不思議な感覚を味わえる。

散歩をしていて見慣れているはずの風景の中で突然の更地に出くわす。そこに何が建っていたのか、何があったのかなかなか思い出せない。学校への通学路。いつも通る道、いつも見かける建物、よくすれ違う人。でも1時間早く登校したら、いつもとは違う道を選んだら、もうそこは異世界ならぬ異空間だ。panpanyaの登場人物たちは名前が分からない(例えば「登校の達人」で主人公は友達に“級友”と呼びかける。もちろん主人公も名前は不明)。どこの誰か分からないことが、どこの誰でもあることになって、読者はpanpanyaの作品世界の主人公になることができる。ほんの少しいつもの自分と違う目で世界を眺めることができる。不思議な異空間を迷子になりながら散歩するのもまた楽しい。

written by Undo

作家Panpanya
作品情報『模型の町』(白泉社 全1巻 Web雑誌「楽園 Le Paradis」掲載)https://www.hakusensha.co.jp/comicslist/64228/

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。